観音町

北日本新聞とても素敵な記事を掲載していただきました

商工会女性部のお店も紹介されています・・・

てくてく風土記

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南砺市福光(観音町)(1)かつての歓楽街

2019.08.13 22:20

 

■面影色濃く飲食店並ぶ

南砺市福光の観音町はかつて、富山有数の歓楽街として栄えた。今もその面影を色濃く残し、半径わずか500メートルの範囲に二十数店のスナックや飲食店が並ぶ。変わりゆく時代の中、この街を舞台にたくましく、しなやかに生きる人たちを紹介する。
(福光・城端支局長 湯浅晶子)

しばらく離れていた地元の福光に異動のため引っ越し、観音町に通い始めて1年半余り。「全店制覇」はまだだが、連れて行ってもらった店も含め、9割は訪ねたと思う。今では家族のようにかわいがって下さる店もある。

石灯籠が並ぶ大通りをまっすぐ歩くと、坂の上に稲荷神社がある。商売繁盛や家内安全、さらには火よけの神も兼ねる。こうして稲荷様を祭っている歓楽街は多く、細い路地が入り組んだ場で目印の役割を果たしたという説もある。

どのまちにも大抵飲食店が集まるエリアはあるが、普通その規模は人口に比例する。観音町は特別といっていいだろう。人口約1万7千人の福光に、今でもこれだけのエリアが残っているからだ。

どうして福光にこんな場所ができたのか。観音町の食堂「福屋」の主人、細木文夫さん(79)が詳しい。

細木さんによると、観音町はわずか10カ月で誕生した。明治期の福光地域は農業や商業で栄えたため金持ちの町人が多く、まちの各地に料理店などが点在していた。これを当時の政策で川沿いの1カ所に集約。「貸座敷営業免許地」の指定を受け、1900年に営業を開始したのが始まりだ。

10軒もの遊郭が並ぶ様は、まさに「娯楽のデパート」。ピークとなる戦前には約150人の芸者らが働いていたという。戦後は関西方面を中心に、空襲で焼け出された女性が働く場を求めて集まった。

夜には三味線の音が響き、「正月にはみんなぴしっと和服を着て、それは華やかだった」と細木さん。草野球の時に、仲良くなろうと女性たちの方向にわざとボールを転がしたという青春時代の思い出も語ってくれた。売春防止法の施行後、多くの店はバーやクラブ、小料理店などに転業して営業を続けた。

細木さんはまちの歴史を後世に伝えようと、同じ観音町でスナック「カラオケまんぷく」を営む竹中良子さんたちと本を執筆している。町内からは「このまちの歴史を子どもに伝えたくない」との声も上がっているという。だが、2人は「失われゆく記憶を残す最後のチャンス」と話す。完成は来年を予定。開町から120年の節目に出版するつもりだ。

■パワフル女将 息吹き込む 消えかけた老舗料亭の灯に、再び息を吹き込んだ女性がいる。

小矢部川のほとりにある料亭旅館「松風樓(しょうふうろう)」。観音町が開町した1900(明治33)年から、その姿は変わらない。数寄屋造りのたたずまいは国登録有形文化財に指定され、夜は荘厳な雰囲気が漂う。

「あ、久しぶり~」。女将(おかみ)の齊藤美華子さん(55)が迎えてくれた。薄い桃色の着物が爽やかだ。上品な外見から想像もつかないほどパワフルで、興奮するとつい故郷の秋田弁が出るのが面白い。

秋田で売れっ子美容師として働いていた時、4代目の文治社長(53)と出会った。家業は旅館だと聞き、「民宿やってるんだ」と思って嫁いできた。ところが、創業100年を迎えた老舗料亭だった。趣のある構えに面食らったものの、中は薄暗く、客もほとんど来ない。「つぶれてるのかな」と思うほどだった。

店を継ぐつもりはなかったが、先代の女将と大女将が相次いで病に倒れた。「やるしかない」と決意し、店の帳簿を開いて衝撃を受けた。鮮魚店や酒店などへのツケがたまりにたまっていたからだ。

「絶対返す」。その一心だった。まず、館内を占拠していた物を捨てた。数百枚のふとんや着物、たんす…。うっそうとした庭木も自ら屋根に上り切った。

金沢や名古屋の一流料亭に足を運び、女将としての振る舞いを学んだ。「なんだその歩き方は」「着物も着ないとはダラにしてるのか」。「ダ、ダラ? タラの大きいのだべか…」。言葉の違いにも苦労したが、一流を知るお客さんに教わることも多かった。

文治社長のアイデアで、しゃぶしゃぶやすき焼きの食べ放題などを始めたところ大ヒット。若者や家族連れ、女性客も訪れるようになった。ツケを返し終えた時、鮮魚店の人と抱き合って泣いたという。

「一客一亭」のもてなしの心を大切にする。花や軸、音楽など、隅々に配慮を行き届かせる。一方で、客にも「もてなされる心」を大切にしてもらいたいと言う。「二つの心があってこそ日本の料亭文化が生きる。厳しいのは変わらないけれど、この大切な場所を精いっぱい守っていきたい」。きりりとした表情は、立派な女将の顔だった。(福光・城端支局長 湯浅晶子)

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